遺贈とは、被相続人が遺言書を書くことによって相続人以外の第三者に相続財産の一部または全部を贈与することです。遺贈を受ける人を受遺者と言います。この遺贈は、遺言者が生前に自らの意思で財産の分配を定め、死後にその意思が実現されることを保障するための制度です。通常の相続は、民法で定められた相続人(配偶者や子など)が財産を受け継ぐ仕組みですが、遺贈は遺言者の意思によって、相続人以外の人や法人、さらには公益団体などにも財産を渡せる点が大きな特徴です。
遺贈には特定遺贈と包括遺贈があります。
特定遺贈とは、遺産のうち特定の財産を示してあげることです。「自宅不動産をBに遺贈する」「預貯金100万円をCに遺贈する」といったように、特定の財産を指定して渡す方法です。こちらは対象となる財産だけを受け取るため、負債を負うリスクが比較的小さいといえます。
これに対して、包括遺贈は、財産を特定せずに遺産の何分の一という具合に割合を指定して贈与することです。たとえば「全財産の3分の1をAに遺贈する」といった形です。包括遺贈を受けた人は、相続人とほぼ同じ立場となり、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も原則として引き継ぐことになります。
遺贈を行うためには遺言が必要です。遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの形式があります。それぞれの形式には特有の要件や手続きが存在し、法律上の効力を持つため正確な手続きが求められます。
遺贈を受ける権利を持つのは、遺言に明示的に指名された者です。しかし、遺言によって法定相続人からの相続権が完全に剥奪されることはできません。一方で、遺贈を行う際には遺留分にも注意が必要です。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分のことで、これを侵害する遺贈があった場合、相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。そのため、遺言者の意思を実現しつつ、相続人とのバランスを考えた設計が重要です。
包括遺贈を受けた受遺者は、相続人と同一の立場に立つので遺贈者(被相続人)が負っていた債務をも承継することになります。包括遺贈を受けた遺産よりも承継する債務が多ければ包括受遺者は自己の固有財産を持って弁済しなければならなくなります。したがって、遺贈を受ける際には、財産の価値だけでなく、関連する義務も十分に考慮する必要があります。

